なんだか複雑な顔をしながらも、彼はウチのお姫様の仰せのままに抱えあげた。

ぎゅーっと大好きなパパに抱きつくやわらかほっぺに頬ずりして、彼は再び私へと目を向ける。



「すみれ、昨日ひとりで押しつけてごめんな。環菜機嫌悪くならなかった?」

「仕方ないよ、誕生日だからってずっとついててあげれるような職業じゃないものー。厳しいプロ野球の世界で、仕事があるのはいいこと! それに環菜も、ちゃんとお利口さんにしてたもんねー?」

「ねー!」



彼の腕の中でかわいらしく小首をかしげる愛娘は、ちゃあんとわかっているのだ。

自分の父親が、たくさんの人を笑顔にできる仕事をしてること。

そして野球をしているときのパパは、世界で1番かっこいいってこと。



《久我選手、延長11回のあの場面はどんな気持ちで打席に入りましたか?》

《そうですね……実は今日、娘の3歳の誕生日でして。あまり一緒にいられない代わりに、今夜は娘のために絶対ホームラン打つぞって思ってたんですよ。あの場面で打てて良かったです》



テレビの中の彼が、安堵の表情で笑っている。

その笑顔から、私はすぐそばの実物へと視線を移した。



「尚人くん、相変わらずベタだな~」

「うるさいな、プロポーズのときは泣いてよろこんでたくせに」



イタズラっぽく茶化すと、彼は環菜を抱っこしたままバツが悪そうに言い返してくる。

その様子に笑って、私は立ち上がった。