『……こういうのを、“運命”って呼ぶんだと思ったんだ』



やさしい微笑みで彼がそう言ってくれたあの日から、いくつも季節はめぐって。



《放送席、放送席ー。今日のヒーローは、延長11回に見事なサヨナラホームランを放ちました久我 尚人選手です。久我選手、おめでとうございまーす!》

《ありがとうございます!》


「あー! パパだあ!」



私がゆうべ録画していた映像を再生したとたん、ひざの上の愛娘が小さな手をいっぱいに伸ばして声をあげた。

そうだよねー、昨日は早々とおねむだったからリアルタイムで観られなかったもんねー。

目を輝かせてテレビに食いつく様子にふふふと笑みをこぼし、私はやわらかな髪を撫でる。



「パパおたちだいだ! かっこいいねぇ」

「そうだねぇ、パパはユニフォームを着てると普段の3割増しかっこよく見えるねぇ」

「……朝っぱらから親子そろって何観てんの?」



耳に届いた眠そうな声に振り向くと、そこには今まさにテレビの中でインタビューを受けている人物が寝ぼけ眼で立っていて。

あらま、ゆうべの延長試合で疲れきってたからもう少し起きてこないと思ってたのに。


私が口を開く前に、娘がひざから元気よく立ち上がる。



「パパおはようー! かんな、ママときのーのパパみてた! パパおたちだいおめでとう! かっこよかった! だっこして!」

「おはよう環菜……その相手を褒め殺してから自分の要望を言う高等テクニックはママから教わったのかな?」

「んーん、ママのおともだちのひろかちゃんだよ~」

「そうかあ……」