「ありがとな。あのときもすみれがそう言ってくれたから、俺は救われた」



ささやいた彼に髪を撫でられる。

その感触を心地よく思いながら、そっと彼の肩に頭を預けて目を閉じた。


……たぶん、久我さんの傷は私が思っている以上に深くて。

それでもその傷を少しでも癒せるように、私はこれから、精一杯彼に寄り添っていきたいと思う。

だってきっと、久我さんが不幸になるのは──橙李お兄ちゃんだって、望んでないはずだから。



「……にしても、あのときは驚いたな。すみれに会いたいなーって思ってたら、目の前に現れたから」

「私だってびっくりしましたよ。へべれけプロ野球選手、でかいし重いし介抱するの大変なので以後気を付けるように」

「ひどい言われようだな……」



ぴっとスプーンをつきつけてハッキリ言えば、久我さんは頬を引きつらせる。

うん、だって、実際家まで運ぶの大変だったし。



「あれは、かなりレアケースなんだけど……ああいや、でもダメだ、俺今まですみれに情けないとこばっか見せてるから全然説得力ないな」



右隣りの彼は頭を抱え、何やらブツブツ。

なんだか本気で落ち込んでいるようだったので、一応私は軽くフォローを入れることにした。



「いやそんな、久我さんそこまで私に残念なとこ見せてないでしょう」

「………」

「え、なんですかその目は」