レーザービームの王子様

「あのとききみに『プロ野球選手になって』と言われてなかったら、きっと俺は今、この仕事をしていなかったと思う。……だけどそれは、強制されたとかじゃなくて」



久我さんの親指が、私の涙をぬぐう。

硬い、指先。野球をがんばってる、大好きな手。



「あの言葉は、俺の背中を押してくれたんだ。親の言いなりになって大事なものを捨てようとしていた俺に、まだ負けんなって、喝を入れてくれた」

「……ッ、」

「ずっと、お礼を言いたかった。……ありがとう、すみれ。俺はきみのおかげで、大好きな野球を失わずに済んだんだ」



そう言って久我さんが笑うから、もう、私の涙腺は制御不能になってしまった。

ぼろぼろ涙をこぼしながら、頬に触れる彼の右手に自分の手のひらを重ねる。



「ほ、ほんとに? 私のこと、恨んでませんか?」

「恨んでない。そんなの、ありえない」

「っわ、私に会ったこと……っ後悔、してないですか……?」



ぎゅっと、彼の手を握りしめながら問う。

久我さんは私の目をまっすぐ見つめて答えた。



「後悔なんて、するわけない。俺はずっと、橙李さんの妹に……すみれに、会いたかったんだから」

「ッ、」

「あの日から何度か、きみの両親とは手紙のやり取りをしてたんだ。だから、すみれがあの後倒れて……俺のことをすっかり忘れてるってことも、知ってたよ」



予想外の事実に、思わず言葉を失う。

久我さんが、うちの親と? ……そんなこと、夢にも思わなかった。