一瞬だけ私たちに向けられた瞳は、涙で濡れていて。



「ごめんなさい。──……俺の、せいなんです」



小さく落とされたはずのつぶやきは、それでもはっきりと私の耳にも届いた。

両親は、思いがけない彼の発言に言葉を失っている。

同じように、私も驚いて彼を見つめた。



「俺……俺はここ最近、部活に顔を出していなかったんです。俺が野球を続けることに、親が反対してて……たぶんこのまま、退部させられることになると思うんですけど」



自分のひざの上に置いたこぶしを、ぐっと彼が握りしめる。



「……あの日橙李さんは、俺の様子を見に来てくれようとしてたんです。もし必要なら、俺の親に話もしてくれるって。おまえは才能あるのにここでやめたらもったいないって、言ってくれて……っ」



言葉が途切れ、目元を乱暴にぬぐった。

そんな彼に、声をかけたのはお父さんだ。



「久我くん……尚人くんだね。橙李がよく話してたよ。『後輩の尚人はすごい。俺よりずっと才能あるし、ああいう奴がプロに行くんだろうな』って」

「……ッ、」

「あの子があんなに褒めるなんて、よっぽど上手いんだね。本当に、やめちゃうのはもったいないよ」



穏やかなお父さんの声に、それでも彼は首を横に振る。



「いえ……今回のことで、覚悟できました。橙李さんの未来を奪ってしまった俺には、野球を続ける資格はありません」

「……きみのせいじゃない。尚人くんが気に病む必要はないんだ」

「違います。俺が……もっと早く諦めてれば……」