レーザービームの王子様

「ふーん。じゃあまだ、付き合ってはないのか」

「まだっていうか、……うん」



──こないだ、キスはしちゃいましたけど。

けれどまさかそんなことは言えないので、私はおとなしく口をつぐんでおく。


3日前。バッティングセンターの帰り道。

久我さんと私は、人気のない路地でキスをした。

熱くて深いそれは、簡単には終わらなくて。途中何度も腰が砕けそうになりながら、それでも必死に私は彼にしがみついて応えようとした。

くちびるが離れた後、久我さんはまた強く私を抱きしめて。「ごめん」とひとことだけつぶやいた後、私の手を引いて再び駅に向かって歩き出した。


それ以上、彼は何も言わなかったし、私も訊かなかった。

『すき』とか、『付き合おう』とか、そんな会話は一切ない。

ないけれど、あのときの私の胸は不安以上に、ただひたすら幸福な気持ちで満たされてしまっていた。

少なくともキスをしていたあのひととき、自分は久我さんに強く求められていたといえる。

それだけで、もう、あの瞬間の私は切なさを超えるしあわせを感じていたのだ。



「ま、がんばれ。俺はキッパリ振られたことだし、すみれにすきな奴がいるなら応援するよ」

「……ありがと」

「おー。俺、おまえのこういう嘘つけないとこ、かわいくてすきだったよ」

「……ヘー?」

「『へー』じゃねーよ普通そこはときめくところだろ」

「は? 私にそういうの期待しないでくれる??」



結局、いくら真面目な話をしてても私たちじゃ最後はこんな調子だ。

呆れたように、それでも口元には笑みを浮かべて総司が言う。



「やっぱ、ブレねーなおまえは。それでこそ深町 すみれ」

「……それって褒めてる?」

「褒めてる褒めてる」

「うさんくさいなー」



打てば響くテンポの良い会話の後、どちらともなく吹き出した。

……大丈夫。私たちはこれからも、いい“きょうだい”でいられる。

きっと、お互いに同じことを思いながら。その後も私と総司は、飽きることなくいろいろな話をした。