「…そりゃあ、私も昔は恋をしたし、
結婚を考えた女性もいたよ」
「じゃあどうして、一緒にならなかったの?
…なれなかったの?」
「うん。
彼女は体が弱くてね、家族に付き合いを反対されてしまったんだよ」
「そうなんだ…」
「昔は今よりももっと、結婚は大きなものだったから。
…大切に育てられた一人娘だったしな」
「…うん」
「私は職も安定していなかったし、
今となれば親御さんのお気持ちも分かるんだけどね。
会えなくなって何年も後に、亡くなったことを知人から聞いたよ」
「そっか…」
「ずっと昔の話だけどね」
「……」
「…大切な想い出というものは色褪せないと思っていたけれど、それは大きな勘違いだった。
どんどん、輪郭がぼやけてくるんだな」
「うん…」
「あんなに好きだった笑顔も、今ではぼんやりとしか思い出せない。
彼女のことは写真すら、残ってないんだ。
忘れてしまって当然なのかもな」
その言葉を聞いて、胸が痛くなる。
「この年になってようやく、
失ったものほど愛しいものもないんだと、痛感するよ」
白髪の増えたロバートを、そう言って寂しそうに笑うロバートを、抱き締めたいと強く思った。

