天気がとても良かったのに、夕方を過ぎてから少し風が出た。
素肌をなぞる都会の風が、体温を奪って足早に逃げていく。
観覧車を降りる時にほどいた右手は、
まだ少しだけクリスの手の平の感触を、ぼんやりと残している。
「人が多いね」
「…うん」
夜のロンドンには人が溢れていた。
薄暗い空にぽつんと見える光。
ネオンが増える度に、気温はどんどん下がっていく。
ヴィクトリアのコーチセンターで帰りのバスの発車を待った。
喧騒と人の波と、どこかの店から聞こえてくる歌と、高い高いビルの影――――
私たちは二人きりだった。
どんなに人がたくさんいても、二人きりなんだと強く感じた。
動き始めたバスの中で、何も言わずにまた手をつなぎなおすと、
街の風に冷やされた心臓が、ぎゅっと切ない音を立てたような気がした。
クリスの映る風景が、強く心に残っていく。
ネオンに光る街も、街路樹の茂る夏の道も、
遠くで光る教会の灯りも。
来る時はずっと眠っていた道を、私たちはまた辿っていく。
何も言わず、何も考えず、
ただつないだ手の平の感触だけが、やけにリアルだった。

