「実はさ…」
言ってもいいのかなと、やっぱり少しだけためらった。
今までクリスにはチャドのこと、どんなことでも言えてきたのに。
「実はさ、ずっとロンドン来たかったの。
チャドと来る約束してたんだけど、結局二人で来れなかったから」
風に乗って運ばれてくる、ビッグベンの鐘の音。
歴史を紡ぐ、荘厳な響き。
その音は、心に少し悲しく響く。
失ってしまったものは、もう元には戻らない。
一秒を刻むこの音が、時の流れの絶対的な残酷さを私に思い知らせているようで。
夏の夕空。
舗装された川岸に咲く色とりどりの花々。
テムズのように大きな川の川沿いを歩くのは、素肌に、髪にとても気持ちがいいのだけれど、
水辺独特の匂いや、水面を通ってくる風が鼻先をくすぐって、何だか泣きたくなってしまう。
風を含んで揺れるスカートが、素足に絡み付いてくる。
さらさらと、柔らかく、まるで風そのものになったみたいに。
この世界は、きれい。
大好きな人が隣にいなくても、
もう二度と会えないのだとしても、ずっと変わることなく。
私の目に映る世界はいつだって七色の光に満ち溢れていて、
どんなに悲しい出来事が起こっても、
その光は毎日、地球へと降り注ぐんだろう。

