一部始終を見ていた美華は、
「よかったね。ちゃんと、作るんだよ。」
そう、にこやかに言った。
「うん。」
凛ちゃんのことも気になるけど......
だけどやっぱり、こうやってチャンスがやってきたんだもん。
きっと、このチャンスを逃したらもっと距離があいてしまうと思う。
そうならないためにも、頑張らないと。
梓の言葉があってから、頭の中はバレンタインのことでいっぱいになった。
何作ろうか。
どんなものなら喜んでくれるか。
ぐるぐると頭を駆け巡る。
校門で美華とわかれ、家に向かって歩き出す。
今日、少し寄り道していこうかな......
特別な誰かのために、バレンタインのチョコを作ったことなんてないから。
どんなものが売ってて、ラッピングの仕方とか、人気のチョコレートとか。
調べてみないとわからないことだらけ。
自分で自分のことが気持ち悪くなるくらい、ワクワクしていた。
街のお店では、バレンタイン用のラッピング用品や、チョコレートの特売。
すっかりバレンタインモード。
お店によっては、バレンタインのBGMが流れていたりして。
友達同士で、何を渡そうか話しながら買い物をしている女の人も多くいる。
バレンタインって、こんなに楽しい思いになれるんだ......
知らなかった。
今までは友チョコとか、家族にあげる用とか、そういうのだけだったから。
梓にチョコをあげるところを想像しただけでドキドキしてくる。
自分、キモいけど。
だけど嬉しいのが事実で。
バレンタインの日に、あと少し、梓との距離が縮まればいいな、なんて考えてた。
私がすこーし、素直になれれば。
距離は少しだけでも縮まる。
頑張ってみようかな、そう思えた。
だけど........物事はそう、うまくいかなかった。

