よく思い出してみよう。
彼は元カレであり、しかもけっこうなイケメンになっている。
なのに、なのに。
私の背中に回ってきた手とか、さっき握られた手とか、ちょっとなんだか違和感がある。
そりゃそうか、彼はただの元カレなのだから。
いくら今が素敵でも、私にとってはただの元カレ。
終始うつむいて、どうしたものかと頭を悩ませている私をよそに大輝くんはずんずん歩いていく。
ちょっと強めに押される背中に感じる圧迫感。
土曜日の夜というだけあって、人通りは多かったはずだった。
だけど気がつけば私はよく分からない場所へと足を踏み入れていた。
さっきからスルスルと右へ曲がり左へ曲がり、一体どこに行くのかと思い始めていた時だった。
「あれっ?」
だいぶボーッとしていたらしい。
大輝くんが遠回りと言って連れてきた場所は、まさかのホテル街だった。
これは何かの間違いかしら?
「ここは一体……?」
「え?ホテル街だけど」
「み、見れば分かるけど。そうじゃなくて!」
私の問いかけにあっさり答える彼を見上げて、焦って首を振る。ついでに後ずさる。
「変なとこ出ちゃったね。と、とりあえず引き返そっか〜」
「なんで?」
「は?なんで、って……」
「行こうよ」
「どこへ?」
「ラブホ」
この時の私は、おそらく完全に石のようにカチコチになっていただろう。
目をひん剥いて、口をパクパクさせた。
「ど、どうしてそうなるの?」
「つぐみ、今フリーなんだろ?久しぶりに再会したんだし、いいかなって」
「おかしいでしょ!もっと早く意思確認するべきことだと思うんだけど!」
「成り行きってやつだよ」



