もう電車であうことはこれでないってことだね。
「ふぅ…。」
大きくため息をついた。
って……どうして中林のことばっかり…。
ブンブン顔を横に振った。
その拍子に右のイヤホンが外れた。
「何?俺に会えなくてさびしいの?」
不意な斜め後ろからの声に反射的に首がその方向に向いた。
あ……。
満面の笑み…というかどこか格好をつけたような…でも楽しんでるような…。
そんな顔をした中林がいた。
「そ……そんなわけないでしょ?」
もう一度本に目を戻し右手でイヤホンをつけなおそうとした。
「ねぇ。」
その右手を掴まれた。
「何?」
「毎朝会えて、俺は…幸せだよ。」
……。
そんなこと言って私が好きになるとでも?
「私はヤダ。朝からあんたに会うなんて。サイアク。」
本を閉じ、右手を振り払って立ち上がる。
目を合わせないように下を向いて隣の車両に移った。
ああ、情けない。
私を彼女にして遊ぶためだけの言葉に……少しだけだまされそうになるなんて。


