「そんなにたくさん訊かなくても、行けばわかります。そう言っているだけです」


言いながら僕から目を逸らし、彼女はベッドから降りてきた。改めて見ると、身体そのものを支えられるのかと心配になるほど、絆創膏や包帯で埋め尽くされた彼女の脚は細くて弱々しかった。本当に、こんな傷だらけの身体で、今にも消えてしまいそうな彼女が、弱者として見られかねない彼女が、僕をいじめていたようなやつらに復讐なんてできるのだろうか。復讐をしている最中に反撃されて、そのまま死んでしまうのではないだろうか。


死ぬこと自体は彼女が望んでいたことだから、きっと命を落とすという事実そのものには何も問題はないはずだ。でも、ここで重要なのは、もしそうなってしまえば復讐する対象によって命の終わりを告げられるということだ。おそらくそんな死に方は、彼女自身が納得しないだろう。自分で死んでいきたいのだ。あるいは、自分で死ねなかったとしても最悪僕に殺してもらえればいいのだ。彼女の中にあるのは、その二つだけだ。じめじめとした梅雨の湿り気のようなものが、彼女から離れようとしないのだ。彼女の身体を蝕んでいるのも、きっとそれだ。


「行きましょう」


感情のない顔。温度のない声。睨みつけるかのような、黒くて冷たい目。


僕が彼女をそう見ているように、僕も周りの人間から同じように見られていたのだろうか。


彼女が手を差し出す。僕はそこに、手を乗せた。しっとりとした季節の中、僕たちのいるこの部屋だけは冷めきっていた。その空気に同化するように、彼女の手は冷えていた。まるで雪のようで、そして死人のようで、湿気を含んだ梅雨の熱に溶かされてしまうのではないかと思うほど、温度のない手だった。


「ナイフ、忘れないでくださいね」