ミネラルウォーターを片手に休憩スペースに入ると、
和樹が一組の浴衣のご夫婦とお話し中だった。
「ごめんなさい和樹、やっぱり待たせしてしまったのね…。湯冷めは大丈夫だったかしら?
羽織を重ねて来て正解よね」
「雪恵様、お疲れさまでございました。
私もついさきほど上がりまして、お話していたところでございます。
しっかり暖まりましたのでご心配には及びません。
色々なお湯がありましたでしょう?
また、全部お試しになられたかと…。
薬湯ミストサウナは初物でしたでしょうが、きっとお気に召したのではないかと存じます」
「そうそう。薬湯の霧が充満していて、あれは体に良いわよきっと。
鼻と喉には、確実に効いているわね…。
あー、あー、音域の広いのを一曲いけそうよ?
……こちらの方々もご宿泊?」
「はい、こちらのご夫婦は銀婚式の記念にご旅行中だそうで、
本館に今晩一泊して次へ行かれるご予定だそうでございます」
「まあ!何て素敵なんでしょう……。
25年ですの?
記念にご旅行だなんて、仲がおよろしくていらっしゃるのですね」
「ありがとうございます。
あなた方ご夫婦も、もしかしたら同じくらいの年数じゃないですか?」
「いえいえ私どもは、暮らしている年数こそ35年も経っていますが、夫婦ではありませんのよ?」
「あら…結婚しない事情があるんですね、少し他人行儀な感じの会話だとは思ったけど…ごめんなさいね」
「事情……は特にごさいませんのよ?ね、和樹」
「はい……さようでございますね」
「え?事情がないのにそんなに長い間?
内縁って、奥様があとあと不利だとか…。
御主人、籍は入れておいてあげた方がいいですよ?」
「おい、お前それは失礼なお節介というものだろう?
すみません、家内は世話好きが過ぎまして……」
「いいえ、どうぞお気になさらず。
しかし、主人は私ではございませんし、私どもは内縁という関係でもないのでございます」
「……ぶっ!
和樹、また誤解されてしまったわね。
失礼しましたわ。
知らない所へ行くと、こういう誤解をよく受けますの。
私が10代の頃から彼は私の執事を勤めてくれていますのよ」
「まぁ!ごめんなさい。
仲の良いご夫婦に見えてしまったので、てっきり…」
こういうことは、なぜか良くあることなのだった。
和樹が一組の浴衣のご夫婦とお話し中だった。
「ごめんなさい和樹、やっぱり待たせしてしまったのね…。湯冷めは大丈夫だったかしら?
羽織を重ねて来て正解よね」
「雪恵様、お疲れさまでございました。
私もついさきほど上がりまして、お話していたところでございます。
しっかり暖まりましたのでご心配には及びません。
色々なお湯がありましたでしょう?
また、全部お試しになられたかと…。
薬湯ミストサウナは初物でしたでしょうが、きっとお気に召したのではないかと存じます」
「そうそう。薬湯の霧が充満していて、あれは体に良いわよきっと。
鼻と喉には、確実に効いているわね…。
あー、あー、音域の広いのを一曲いけそうよ?
……こちらの方々もご宿泊?」
「はい、こちらのご夫婦は銀婚式の記念にご旅行中だそうで、
本館に今晩一泊して次へ行かれるご予定だそうでございます」
「まあ!何て素敵なんでしょう……。
25年ですの?
記念にご旅行だなんて、仲がおよろしくていらっしゃるのですね」
「ありがとうございます。
あなた方ご夫婦も、もしかしたら同じくらいの年数じゃないですか?」
「いえいえ私どもは、暮らしている年数こそ35年も経っていますが、夫婦ではありませんのよ?」
「あら…結婚しない事情があるんですね、少し他人行儀な感じの会話だとは思ったけど…ごめんなさいね」
「事情……は特にごさいませんのよ?ね、和樹」
「はい……さようでございますね」
「え?事情がないのにそんなに長い間?
内縁って、奥様があとあと不利だとか…。
御主人、籍は入れておいてあげた方がいいですよ?」
「おい、お前それは失礼なお節介というものだろう?
すみません、家内は世話好きが過ぎまして……」
「いいえ、どうぞお気になさらず。
しかし、主人は私ではございませんし、私どもは内縁という関係でもないのでございます」
「……ぶっ!
和樹、また誤解されてしまったわね。
失礼しましたわ。
知らない所へ行くと、こういう誤解をよく受けますの。
私が10代の頃から彼は私の執事を勤めてくれていますのよ」
「まぁ!ごめんなさい。
仲の良いご夫婦に見えてしまったので、てっきり…」
こういうことは、なぜか良くあることなのだった。


