パドックで会いましょう

毎週、ねえさんに会える事を願いながらパドックで待ったけれど、一夜を共にしたあの日から一度もねえさんには会っていない。


ひとつだけ変わった事と言えば、先週、おじさんのいるホスピスに足を運んだ事だ。



おじさんとの約束を守ろうか、それとももう一度会いに行こうかと迷っているうちに数週間が過ぎ、ねえさんとも会えず、指輪も渡せずじまいだった。


その日僕は、仕事を終える頃に妙な胸騒ぎを覚えた。

なんだろう、気のせいかなと思いながらジムに足を運びかけたけれど、気が付けば僕の足は、駅に向かっていた。

なぜだろうと不思議に思いながら不意に手を入れたポケットの中で、おじさんから預かった指輪の入った小箱が指先に触れた。

どうしてこんな所にこれがあるのか?

夕べ遅く、寝ぼけていたのか、バッグの中の物をスーツのポケットに移した記憶が、微かに蘇る。


僕は仕事を終える頃に覚えた妙な胸騒ぎを思い出し、スマホを出しておじさんのいるホスピスの場所を調べた。

おじさんに会いに行こう。

男同士の約束を破る事は忍びないけど、そんな事を言っている余裕は僕の中にはなかった。



電車を乗り継いで、1時間ほどかけてたどり着いたその建物は、人目を忍ぶようにひっそりと佇んでいた。

“木蓮の家”と小さなプレートが掛けられた玄関のドアを開けると、職員らしき人たちが、慌ただしく動き回っていた。

受付の前で立ち尽くす僕に、職員の初老の男性が声を掛けてくれた。