パドックで会いましょう

土曜日の休日出勤を終えて、日曜日の朝。

僕はおじさんから預かった指輪をバッグに入れて、競馬場へ足を運んだ。

レースもそっちのけで、パドックで待ったけれど、最終レースが終わっても、ねえさんは姿を見せなかった。

やっぱり、僕との事があるから、ここには来づらいんだろうか?


競馬場からの帰り道、おじさんのアパートに寄ろうかと思ったけれど、すぐに踵を返して駅に向かった。

おじさんはもう、あの部屋にはいない。

何日か前に、知り合いの運営しているホスピスに移っているはずだ。


僕はあの日、おじさんと約束した。

先の長くない自分とは、もう関わらない方が僕のためだと、おじさんは涙ながらに言った。

「アンチャンには、カッコ悪いとこ見せてしもたな…。俺かて若い時は生徒らに慕われてな、少しはカッコ良かったんやで。アンチャンは俺の笑ってる顔だけ覚えといてくれや。」

そう言えば先輩が、先生と僕がなんとなく似ていると言っていた。

見た目は似ても似つかないはずなのに、どこがどう似ているのか、わからないけれど。



地方の競馬場で開催される夏競馬の時期が過ぎて、またこの競馬場でレースが開催されるようになり、少しずつ秋の気配が深まってきた、9月の最終週。

今日はこの競馬場で、菊花賞のトライアルレースでもあるGⅡの神戸新聞杯が開催される。

あれからも僕は相変わらず、日曜日になると競馬場へと足を運んだ。