ねえさんを守るためにした事で、家族を巻き込んでしまったせいで、その後おじさんは家族と疎遠になったそうだ。
それから教師としての職を失ったおじさんは、日雇い労働の仕事や、過去の経歴を重視されない職場などを探して、その日暮らしの日々を送って来たらしい。
ねえさんとの駆け落ち騒動から、随分月日が流れてほとぼりがさめた数年前。
おじさんはもう一度あの頃の夢を見たくて、ここに戻ってきたと言った。
「あの子が中学卒業するほんの少し前にな…夜に二人で会(お)うてる時に、競馬場の前を通ったんや。そしたらあの子が、馬が走るの目の前で見てみたい、言うてな…。ほなもうすぐ桜花賞あるから行こうか、言うて…一緒に観に行く約束したんやけどな…。」
結局、約束した桜花賞の日の2日前に駆け落ちした事で、桜花賞を観に行く約束は、果たされなかったそうだ。
「競馬場にはパドックって言う所があってな、これからレース走る馬を目の前で観る事ができるんやで、って教えたら…ほな、もしはぐれた時は、パドックで待ってるって、あの子が言うたんや。そんな事を思い出してな…。ここに戻って落ち着いた頃、競馬場に行ったら、パドックにあの子がおった…。俺の事は忘れてしもてんのに、あの子はパドックで待ってたんや。」
おじさんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
肩を震わせて、声を殺してむせび泣くおじさんの背中を、僕はたださすってあげることしかできなかった。
ああ…だからなのか。
ねえさんはいつも、パドックにいた。
覚えていないはずのおじさんを待っていたのかも知れない。
それから教師としての職を失ったおじさんは、日雇い労働の仕事や、過去の経歴を重視されない職場などを探して、その日暮らしの日々を送って来たらしい。
ねえさんとの駆け落ち騒動から、随分月日が流れてほとぼりがさめた数年前。
おじさんはもう一度あの頃の夢を見たくて、ここに戻ってきたと言った。
「あの子が中学卒業するほんの少し前にな…夜に二人で会(お)うてる時に、競馬場の前を通ったんや。そしたらあの子が、馬が走るの目の前で見てみたい、言うてな…。ほなもうすぐ桜花賞あるから行こうか、言うて…一緒に観に行く約束したんやけどな…。」
結局、約束した桜花賞の日の2日前に駆け落ちした事で、桜花賞を観に行く約束は、果たされなかったそうだ。
「競馬場にはパドックって言う所があってな、これからレース走る馬を目の前で観る事ができるんやで、って教えたら…ほな、もしはぐれた時は、パドックで待ってるって、あの子が言うたんや。そんな事を思い出してな…。ここに戻って落ち着いた頃、競馬場に行ったら、パドックにあの子がおった…。俺の事は忘れてしもてんのに、あの子はパドックで待ってたんや。」
おじさんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
肩を震わせて、声を殺してむせび泣くおじさんの背中を、僕はたださすってあげることしかできなかった。
ああ…だからなのか。
ねえさんはいつも、パドックにいた。
覚えていないはずのおじさんを待っていたのかも知れない。



