パドックで会いましょう

なんの仕事をするのか、ねえさんから必死で聞き出したおじさんは、ねえさんを守るために、教師と言う仕事も、身内も何もかも捨てる覚悟で、ねえさんを連れて逃げる事にした。

「俺らを知ってるもんがおらん遠くに逃げて、しばらくの間は幸せに暮らせたんや。二人でおるのが当たり前みたいに…楽しかった…。」

おじさんは窓の外の景色よりも、どこか遠くを眺めて、小さく微笑んだ。

きっと、二人きりで過ごした穏やかで幸せな日々を思い出していたんだろう。

「でもな…逃げ出したりして、そんな日が長く続くわけがなかった。どうやって調べたんかはわからんけど、居場所を突き止められてな…俺はあの子を連れて、また逃げたんや。」

ねえさんを連れて逃げる途中、二人は正面から猛スピードで突っ込んできた車に跳ねられた。

薄れていく意識の中、必死でねえさんの手を握ったと、おじさんは言った。

目が覚めるとそこは病院のベッドの上で、ねえさんの姿はなかったそうだ。

「あの時な…あの子のお腹には、俺ら二人の子供がおった…。生まれてくる子供のために、親父を説得して、ちゃんと籍入れようて言うてた矢先の事や。俺は事故に遭っても手足骨折した程度で済んだけど、後から人に聞いた話によると、あの子は頭を強う打ってな…なかなか意識が戻らんかったそうや。」

「おじさん…その話は誰から?」

「…ああ…。あの子と幼馴染みで仲良かった教え子がおってな…。退院した後の様子を教えてくれたんや。」

間違いない。

それ、きっと先輩だ。