パドックで会いましょう

二人の話をした後に、先輩はボソリと呟いた。

「そう言えば…なんとなくやけど、先生に似てるわ、おまえ。」

僕は薄暗い部屋の中で、嗚咽を噛み殺して、ただ涙を流していた。

きっとねえさんは、無意識のうちに、僕に先生の面影を求めていたんだ。

僕自身を好きになってくれたわけじゃない。

忘れ去ってしまった記憶の片隅で、かつて愛した先生の面影を、ねえさんは今も求めている。

夢に見ても思い出せない、壊れてしまった恋の亡骸を胸に抱いて。



先輩の家に泊まった翌日、僕はまぶたを腫らして自宅に戻った。

思いがけずねえさんの過去を知ってしまった。

僕にはどうする事もできない、重い過去だ。

ねえさん自身が思い出す事のできない過去を、僕の口から話す事はできない。

幼馴染みの先輩でさえ、ねえさんには何も話せなかったと言っていた。

それはきっと、ねえさんにとって、思い出すにはつらすぎる記憶だから。

失ってしまった大切な人の記憶は、ねえさんを今も苦しめている。

父親が死んでから、覚えていない夢に苛まれて泣いていると、ねえさんは言っていた。

ねえさんを苦しめた父親がこの世を去った事がきっかけで、ねえさんの中の遠い記憶が動き出したのかも知れない。