パドックで会いましょう

二人の会話を聞いていると、見た目によらず、馬を見る目があるのは熟練者っぽいおじさんではなく、若くて綺麗なねえさんの方らしい。

「おっちゃん、毎週来てるくせにホンマ馬見る目ないわ。最低人気やけど1ー3やな。」

「ひどいのう、彼氏にそんなこと言うなや。」

おじさんの一言に驚いて、僕は思わず声をあげる。

「えっ…彼氏?!」

いやいや、どう見ても彼氏と彼女と言うよりは親子だろう?

っていうか、こんな若くて綺麗な人に、こんな無精髭のおじさんは似合わないよ!

「おっちゃん、アンチャンがびっくりしてるやん。」

「週末の彼氏やろ?」

ねえさんはおじさんの一言に吹き出した。

「確かに毎週ここで会(お)うてるし、週末一番長いこと一緒におるな。」

「ほれみい、週末の彼氏や。」

おじさんが肩を抱き寄せると、ねえさんはその手を掴んで捻り上げた。

「痛い、痛いて!!」

「わかったわかった。そういう事にしといたるわ。でもお触りはナシやで。アタシら、ずっと清い関係でいよな、おっちゃん。」

ねえさんはニコニコ笑いながらおじさんの手を離した。

おじさんは痛そうに肩をさする。

「なんや、あかんか。おねーちゃん落とすんは難しいのう。」

そりゃそうだろう…。

多分冗談なんだろうけど、このおじさんの考えている事もよくわからない。

「おっちゃん、馬券買うんやったら早よ行かんと締め切られてまうで。」

「おお、ホンマや。行ってくるわ。」

おじさんは電光掲示板の時計を見ると、慌ててその場を離れた。