パドックで会いましょう

その夜、僕は先輩の部屋に泊めてもらった。

先輩は布団に入って間もなく、軽い寝息をたて始めた。

僕は用意してもらった布団に横になり、眠れなくて寝返りを打つ。


“こいつな…可哀想なやつやねん。”


先輩がしてくれた“ねえさん”の話は、僕に大きなショックを与えた。




先輩の話によると、中学時代のねえさんは、向かうところ敵無しのヤンキーだったらしい。

先輩や他のヤンキー仲間とつるんでは、他校の不良たちとしょっちゅうケンカをしていたそうだ。

中学3年の時、例の先生が担任になり、熱心に声を掛けてくる先生に心を動かされ、先輩もねえさんも変わったんだそうだ。

それまでは学校に行ってもまともに授業を受けていなかったのに、服装や髪型の乱れを正し、真面目に授業を受けるようになったらしい。

担任の先生のおかげで、先輩は将来の事を考えるようになり、高校を受験した。

ねえさんは家庭の事情で進学を希望しなかったけれど、中学校からの推薦で就職できるよう、授業で習う以外の社会の動きなども真面目に勉強した甲斐あって、手堅い地元の中小企業に就職できたそうだ。

だけど無事に中学を卒業して間もなく、担任の先生とねえさんは、駆け落ち同然で姿を消したらしい。

「こいつな、小5の時、急にオカンが病気で死んでから、オトンに虐待されとったんや。オトンはオカンの再婚相手で、酒飲みで働きもせんとギャンブルに狂って、借金ばっかり作ってな…。」