パドックで会いましょう

何がなんだか、僕にもさっぱりわからない。

あの夜、ねえさんがなぜ僕にあんな事を言ったのか。

なぜ、僕と一夜限りの関係を持ったのか。

「僕にもね、何がなんだか、さっぱりわからないんですよ。」

「なんのこっちゃ…。おまえがわからんのやったら、俺にもわからんわ。」

呆れたように先輩が呟いた。

「…ですよね。」

僕はやりきれない気持ちを、ビールと一緒に喉の奥に流し込んだ。


ねえさん本人に確かめなければ、ねえさんの気持ちはわからない。

だけどもし問い詰めたところで、うまくかわされてしまうのかもしれない。

確実に言えるのは、今だけ、と言ったと言う事は、ねえさんが僕と一緒にいる未来を求めてはいないと言う事だけだ。

僕の事なんか好きでもないのに、ねえさんはあの夜、今だけ、と言って僕を求めた。

それが無性に悲しくて、虚しい。

なんで僕はあの時、ねえさんを欲しいと思う気持ちを抑えきれなかったんだろう。

体だけ重ねたって、心がそこにないと虚しいだけだと、後になって気付いた。

僕だけがどれだけ想っても、どんなに優しく抱きしめても、ねえさんの心は僕のものにはならないのに。



それから僕と先輩は、先輩が父親からもらったと言う、なかなか手に入らないと有名な日本酒を飲みながら、他愛ない話をした。

先輩は彼女はいないと言うけれど、話を聞いていると、それは特定の彼女がいないと言うだけで、かなりの頻度でいろんな女の人がこの部屋を訪れているようだ。

やっぱりモテる男は違う。


僕なんかこの歳になって、この間ようやく初めて……いや、考えるのはやめておこう。


また虚しくなりそうだ。