パドックで会いましょう

以前はグラスに2杯も飲めば真っ赤になっていたのに、ねえさんと焼肉屋に行った時なんて、生ビールをジョッキで3杯も飲んだ。

あの日、ねえさんと一緒に飲んだビールは美味しかった。

「休みの日にね…飲むんですよ、ビール。」

「そうなんか。それで慣れたんやな。」

「多分…。」


一緒にいなくても、僕の頭の中は、ねえさんの事ばかりだ。

ねえさんは今、どこで何をしているだろう?

日曜日、ねえさんは競馬場に来るだろうか?

もしかしたら、もう会えないかも知れない。

あんなふうに僕の心と体に、確かにそこにいた痕だけを残して消えてしまうなんて。

もう会えなかったら、僕のこの気持ちはどうすればいいんだろう?


「なんや…最近なんかあったんか?」

先輩はさきいかを噛み締めながら僕に尋ねた。

「仕事の合間も、なんやボーッとしとるやろ?気になってたんや。」

驚いた。

先輩は僕の事、ちゃんと見てたんだ。

「僕、ボーッとしてますか?」

「なんちゅうか…どこ見とんねん!ってツッコミ入れたなるような感じや。目の焦点が合(お)うとらん。」

「そうですかねぇ…。」


ねえさんとの事を話したって、どうにかなるわけじゃない。

ただ、先輩の目から見てもわかるくらい、僕は落ち込んでいるってだけだ。


「なんや?女にフラれたんか?」

変に鋭いな、先輩は。

「フラれた…ってわけじゃないです。」