パドックで会いましょう

仕事の後、先輩に連れられて、先輩が一人暮らしをしている部屋にお邪魔した。

確かに一人暮らしなんだろうけど、なんとなく女の人のいる匂いがする。

それも不特定多数と言った感じで、いろんな物が甘い香りを放っている。

「先輩、一人暮らしなんですよね?」

「そうや。なんかおかしいか?」

「いえ…。あちこちから、いろんな女の人の匂いがするなと思って。」

「おまえは犬か!どんだけ鼻が利くねん!!」


ああ、そうか。

確かに僕は、匂いには人一倍敏感だ。

だからねえさんに初めて会った日も、ねえさんの香りにドキドキしていた。

ねえさんが僕の部屋に泊まった日も、いつものねえさんの香りではなくて、僕と同じシャンプーの香りにドキドキしたけれど。

あれは香りにと言うか、ねえさんが僕の部屋で僕と同じシャンプーを使った事に対してドキドキしていたのかも知れない。


「まあ座れや。用意するわ。」

「手伝います。」

買ってきたつまみや総菜をテーブルに並べ、とりあえずよく冷えた缶ビールで乾杯した。

渇いた喉を、冷たいビールが炭酸の泡を弾かせながら流れ込んでいく。

勢いよくビールを煽る僕を、先輩は不思議そうに見ている。

「おまえ、なんか感じ変わったな。」

「そうですか?」

「ああ、なんて言うか…前はもっと女の子みたいにチビチビ飲んでたやろ。えらい飲めるようになったんやな。」


それはもしかしたら、いつも競馬帰りに、ねえさんとおじさんと一緒にビールを飲んでいるせいかも知れない。