パドックで会いましょう

「おっ、今日は珍しく男連れか?」

ねえさんの隣に立ったおじさんが、ねえさんの肩を叩いた。

おじさんはねえさんと僕を交互に見る。

「なんや、弟か?それとも若いアンチャン、ナンパして来たんか?」

おじさんの言葉にねえさんはケラケラ笑った。

「ちゃうよ。入り口んとこで柄の悪いのに絡まれてたから。ここ初めてやって言うし、迷わんように連れてきたんよ。競馬も初めて言うし、ちょっと教えてた。」

「そうか。ホンマにアンチャンやな。」

おじさんはおかしそうに笑った。

「アンチャン…?」

「新人ジョッキーの事な、アンチャンって言うねん。よし、ちょうどええから、アンタの事はアンチャンって呼ぶわ。」

アンチャンって…。

確かに僕は競馬初心者だし、職場でも新人だけど…。

おじさんは競馬新聞を広げて、ねえさんに見せた。

「ところでなぁ、おねーちゃん。4番どないやろ?」

おねーちゃんって…。

どう見てもねえさんは、おじさんの娘くらいの歳だろう?

「悪くもないけど、良くもないな。勝ち負けは厳しいで。」

ねえさんは差し出された新聞を見もしないで、パドックを周回している4番の馬を見ながら答えた。

「やっぱりそうか。最終追いきりで一番時計出したとか、新聞ではええ感じの事書いてるんやけどな。」

「新馬やからな。そんなもんあてにならんよ。慣れん輸送で疲れたんちゃう?」