パドックで会いましょう

「はあ?何言うてんねん。俺は俺やし、おまえはおまえでええやんけ。みんながみんな、おんなじやったら気持ち悪いわ。」

確かに、見た目も中身も僕と同じの人がたくさんいるのを想像すると、吐き気がする。

だけど、例えば先輩と同じだったら?

そう考えて、僕は思わずため息をついた。

「……同じでもいいです、背の高いイケメンになれるなら。」

「アホか。おまえ、最近なんかおかしいぞ?」

「そうですか…。」


いつも通りのはずの毎日なのに、ねえさんが黙って姿を消したあの日から、僕の心はなんとも言いがたい不快感に覆われている。

そう、ちょうどねえさんが言っていた、胸に穴が空きそうで気持ち悪くて…そんな感じだ。


「で、ヒマだったら悪いですか?」

思わず無愛想にそう言うと、先輩は眉をひそめながらお茶を飲み込んだ。

「なんや感じ悪いな、悪いなんて言うてへんやろ。ヒマやったら久しぶりに一緒に飲みに行かんかなーと思ただけやんけ。」

「すみません、感じ悪くて。でも、合コンとかキャバクラとかならお断りします。」

おかずの最後の一口を食べ終わった僕は、箸を揃えて手をあわせた。

「アホか!俺かてそんなとこばっかり行ってへんちゅうねん!」

「そうなんですか?僕はてっきり、先輩はそういう女の人のいる所でしか飲まないんだと思ってました。」

「ちゃうわ!おまえ、顔に似合わず毒吐くようになってきたな…。」

「すみません。根が正直なもんで。」

先輩はばつが悪そうな顔をして頭を掻いた。

「…まあええわ。たまには男同士、二人でゆっくり飲もうや。それやったらええやろ?」

「そうですね。それならお供します。」

「そうや、今日うち来いや。オトンからもろたうまい酒があるんや。」