パドックで会いましょう

ねえさんは小さく息をついて話を続ける。

「アタシは中学出てしばらくしてから、一緒には暮らしてなかったんやけど、オヤジは何年か前に酒飲みすぎて体壊してな、一人で生活でけんから、なんや知らんけど施設に入れられとったらしい。そこで息引き取ったって。」

「じゃあ…ねえさんは一人ぼっちになっちゃったんですか?」

「オカンの妹が遠くにいてるみたいやけどな。いつやったか忘れたけど、そこの家の事情で、アタシの事は引き取れん言うてたの聞いた事がある。まあ…オヤジの事はええねん。戸籍上は親子やし、死んだ後はなんやかんやで忙しかったから、しばらく競馬場にも行けんかった。」


誰かが亡くなった時、残された身内は何かとやらなければならない事が多い。

僕の母方の祖父が亡くなった時、両親や親戚のおじさんたちが、しばらく忙しそうにしていた事を覚えている。

それなりの歳の人生経験を積んだ大人が、何人がかりかで処理していた事を、ねえさんはきっと、たった一人で済ませたのだろう。

ねえさんが二週続けて競馬場に姿を見せなかった事や、随分疲れた様子だった理由が、やっとわかった。


もしかしたら、父親が亡くなってホッとした事で、自分でも覚えていないほど幼く幸せだった頃の夢を見て、虚無感みたいな物に悩まされているんだろうか。


「一人で大変だったでしょう。それで疲れてたんですね。」

「うーん…、確かにそれも少しあるけど、それだけちゃうねん。」

「他に何かあるんですか?」