パドックで会いましょう

「…やっぱり僕じゃダメですね。ねえさんが一人で不安な時も、安心させてあげられない。」

僕はねえさんの体から腕をほどいた。

ねえさんは小さく笑って、僕の胸に顔をうずめた。

「そんな事ないよ。今日はアンチャンが一緒にいてくれるから、一人で泣かんで済む。」

「…泣いてたんですか?」

「ん?うん、なんでかなあ…アタシにも、ようわからんけど…。ここ最近、毎晩夢見てさ…目ぇ覚めたら、なんか悲しくて泣いてんねん。」

「悲しい夢なんですか?」

「どんな夢かは全然覚えてへん…。でもな、多分幸せな夢なんやと思う。夢見てる時は、あったかくてフワフワして気持ちいいねん。」

「幸せな夢なのに…なんで?」

「わからん。目ぇ覚めたらめちゃめちゃ悲しくて、ここら辺がギューッて痛いと言うか…。」

ねえさんは胸の辺りを押さえて、うつむいた。

「なんて言うたらええんやろう…。痛いと言うか…苦しいと言うか…穴が空きそうな感じで気持ち悪くて、なんぼ押さえても叩いても、治らへん。なんでかわからんのに、涙ばっかり出てくるんよ。」

その感覚は僕にも経験があるような気がする。

いつだっただろう?

「あのさ…勝手にしゃべるから返事もせんでええし、眠なったら寝てくれてええから、しょうもない独り言や思て聞き流してくれる?」

「え?あ…はい…。」

ねえさんは僕の腕を掴んで、自分の背中にまわした。

「あとな…もう少しだけでええから、こうしといて欲しい。」

「…はい…。」

僕はもう一度、ねえさんの体を抱きしめた。

強く抱きしめると壊れてしまいそうな華奢なその体を、壊さないように、優しく包むように抱きしめた。