パドックで会いましょう

そこには数頭の馬がいて、丸いトラックのような場所を周回していた。

「ここ、パドック言うねん。これからレースに出る馬が見れる場所。」

「へぇ…。」

目の前にいる馬よりも、僕の腕を掴むねえさんの手が気になって仕方がない。

まだこうしていて欲しいような、恥ずかしくてもう離して欲しいような、妙な気分だ。

僕はなんとか気をまぎらわそうと、ねえさんに話し掛ける。

「ここでこの馬たちの何を見るんですか。」

「今日の馬体の仕上がり具合とか、馬の調子とか、今の状態やな。歩様がしっかりしてるなとか、落ち着いてるなとか。逆に興奮しすぎて勝負にならんなとか。」

「そんな事までわかるんですか?」

「ずっと見てるからな、だいたいはわかるよ。ホラ、5番のあの馬なんか、イレ込みまくって思いきり頭上げ下げして、厩務員振り回してるやろ。ああなってまうとろくに屋根の言う事も聞かんで、勝負にならんのよ。」

「イレ込み…?屋根…?」

「イレ込むっていうのは興奮する事。屋根は騎手の事。わかる?」

「初めて聞きました。そんな競馬用語があるんですね。」

新しい事を教えてもらうのは、なんでも新鮮なものだ。

ついさっきまで競馬にはなんの興味もなかったのに、こんなふうに教えてもらうと、少し興味が湧いてくる。