パドックで会いましょう

僕の肩口に顔をうずめて、ねえさんは迷子の子供のように僕にしがみつく。

いつになく頼りなげなねえさんの背中を、僕はおそるおそる抱きしめた。

「僕で良ければ、一緒にいます。」

「うん…。」

ねえさんは小さくうなずいた。

一緒にいるとは言ったものの、このままここでずっとこうしているわけにもいかない。

僕はこれまでにないくらい胸が高鳴るのを感じながら、ありったけの勇気を振り絞る。

「僕の部屋…来ますか?」

「…うん…。」

また小さくうなずいたねえさんの背中を、僕は優しくトントンと叩いた。

「行きましょう。タクシー拾います。」

いつかねえさんが競馬場でそうしてくれたように、僕はねえさんの手を引いて歩き出した。



仁川の駅前でタクシーに乗り、20分ほどで自宅に着いた。

部屋の明かりをつけて、エアコンのスイッチを入れた。

部屋に入ると、ねえさんはベッドにもたれて床に座った。

ねえさんはあれから一言も話さず、ただ黙ってうつむいている。

けっして広くはない一人暮らしの僕の部屋に、ねえさんがいる事が不思議で仕方ない。

お互いの歳も名前も住んでいる場所も知らないのが当たり前だったのに、ここ数週間で何かが変わり始めているような気がした。