パドックで会いましょう

ねえさんは肉が焼けるのを眺めながらビールを飲んでいる。

朝は疲れているように見えたけど、今は随分表情が明るい。

気分がまぎれたのか、それとも少し無理をしてなんともないふうを装っているのか。

なんとなく、ねえさんのビールを飲むペースが少し早い気がした。

「ねえさん、飲むペース早くないですか?」

「アンチャンの奢りやから美味しいねん。」

「だったら急いで飲まなくても大丈夫です。ゆっくり飲んで下さいね。」

網の上の肉をひっくり返しながらそう言うと、ねえさんはジョッキを片手にニヤッと笑った。

「ホンマに優しいなあ、アンチャン。自分で気ぃ付かんうちに、女の子タラシ込んでるんちゃうかぁ?」

ねえさんのタチの悪い冗談に、僕は思わずビールを吹き出しそうになった。

そんな事ができるなら、僕は今頃、もう少しくらいはモテてるんじゃなかろうか?

「タラシ込むなんて人聞き悪いですね。僕にはそんな高度な技術ありません。」

そう、そんなのできるわけがない。

もしできるなら、僕はねえさんをタラシ込みたいんだけど。

…簡単にはいかないだろうな。

そんな事を思いながら、食べ頃に焼けた肉をねえさんの皿に入れてあげると、ねえさんはニコッと八重歯を覗かせて笑った。

「自覚してやってるやつは、ただのタラシや。アンチャンはそんなやつとちゃうって、わかってるよ。」