パドックで会いましょう

初めて会ったのに、綺麗な上になんて親切な人なんだろう。

関西人の冷たさと恐ろしさに絶望しかけていた僕に、関西人も悪い人ばかりではないと教えてくれた気がする。

「馬券買うだけでええの?せっかく来たんやから競馬見て行けば?今日は開催日やから目の前で馬の走るとこ見れるし、G1もあるしな。」

「僕、競馬見た事もないんですけど…わかりますかね?」

「大丈夫やって。賭け方わからんでも、馬走るの見れば面白いから。」

「そう言えば僕、馬が走るの生で見た事ないです。見てみようかな。」

「そうしとき。見て行かんかったら、入場料もったいないで!」

僕はねえさんの半歩後をついて歩く。

さっきは強面の男たちから恐れられていたけれど、そんなに怖い人とは思えない。

「頼まれたレースは何レース目なん?」

「えーっと…確か、メインレース…って言ってました。」

「ああ…桜花賞やな。まだ時間あるし、後で馬券売り場に連れてったるから、先にこっち行こか。」

ねえさんは僕の腕を掴んで、人混みをすり抜けるようにしてスタスタと歩く。

生まれてこのかた、母親と身内のおばさん以外の女の人に腕を掴まれた事なんて初めてだ。

僕の腕を掴む、ねえさんの細くて柔らかな指先に、ドキドキして顔が赤くなってしまう。

ねえさんは立ち止まり、人のたくさん集まる場所の先を指差した。

「ほら、見てみ。」

「あ…馬…?」