パドックで会いましょう

宝塚記念の翌週の日曜日。

朝から最終レースが終わるまで待ってみたけれど、ねえさんは姿を現さなかった。

珍しい。

何か大事な用でもあったのかな。

体の具合が悪いんじゃなければいいんだけど。

もちろん連絡先も知らないから、今日はどうしているのか、知るすべもない。

かろうじて会えたおじさんは、暑そうにバタバタと扇子で仰ぎながら、首に掛けたタオルで汗を拭った。

なんだかおじさんの顔色が良くない気がする。

「しかしあっついのう…。アンチャン、帰りに一杯付き合えや。奢ったるから。」

「いいですよ。」

ねえさんの事も知らないけれど、おじさんの事も、もちろん何も知らない。

今日はねえさんもいない事だし、いい機会だから、今まで聞きにくかった事を少しだけ聞いてみようかな。



いつもの居酒屋でおじさんと一緒に、よく冷えたビールを飲んだ。

相変わらず女将さんの作ったモツ煮込みは美味しい。

「おじさん。僕、ずっと気になってた事があるんですけど。」

「おう、なんや?」

おじさんはネギと生姜をたっぷり乗せた冷奴に醤油をかける。

「おじさんとねえさんは、もう付き合い長いですか?」

「うーん、もう何年になるやろな。最初はただしょっちゅう顔合わせるだけやったけどな。そのうち話するようになって、たまにビール飲みに来るぐらいの仲にはなった。それがどうかしたんか?」

「いえ…。おじさんとねえさんがお互いの話をしないのはなんでだろうって、いつも不思議だったんです。」