パドックで会いましょう

そんな日々を送っているうちに、初夏。

暑くなってきたので、僕は少し短めに髪を切った。

なんとなく、ほんの少しだけど大人っぽくなった気がした。

ねえさんは、髪を短く切った僕を見て、よく似合うと誉めてくれた。

少しくらいは、ねえさんが惚れるくらいの男前に近付けたかな。



夏が近付くと競馬場はまた賑やかになった。

レース開催期間がやって来たからだ。

僕はその頃にはもう、ねえさんへのこの気持ちは恋なんだと、ハッキリ自覚していた。

日曜日の朝、パドックにはねえさんがいる。

声を掛けて一緒に馬を見ているとおじさんがやって来て、おねーちゃん、どの馬がええ?と予想をし始める。

昼はアイスコーヒーを飲みながらカツカレーを食べて、たまに僕が馬券が当てると、ねえさんにアイスクリームを奢ったりもした。

なんの進展もないけれど、ただ会えるだけで嬉しくて、一緒にいられるだけで幸せな気持ちになった。


「アンチャン、けっこう筋肉ついたなあ。」

ずいぶん筋肉質になった、半袖のシャツから覗く僕の腕を、ねえさんは笑いながら指先でつつく。

この腕で、ねえさんを抱きしめられたらな。

そんな事をする勇気はもちろんないけれど、一人暮らしの部屋でベッドに入ると、ねえさんの笑顔と、指先の柔らかい感触を思い出し、脳内でねえさんを抱いては一人で果てると言う、不毛な夜をくりかえした。

ねえさんへの想いは、初めて会った頃のような憧れとか、淡い想いではなくなっていた。

いつの間にか僕は、ねえさんのすべてが欲しいと思うほど、どうしようもなくねえさんに恋い焦がれている。

ねえさんの事を知りたい。

どこに住んで何の仕事をしているのか。

歳も、名前さえも知らない。

もし僕が好きだと言ったら、ねえさんはどんな顔をするだろう?