パドックで会いましょう

モツ煮込みを食べながらビールを飲んだ。

モツ煮込みも、ビールも、やっぱり美味しい。


自分で自分を卑下して惨めにするのは、もうやめよう。

今はまだ子供扱いされている僕だけど、ねえさんがキスしたくなるようないい男に、いつかはなりたい。


そんな夢くらいは、見てもいいかな。




その翌日から僕は、ただひたすら頑張って仕事に励んだ。

いい男を目指すなら、やっぱり仕事はできなくちゃ。

まだ新入社員だから、教えられた仕事を必死で覚える日々だ。

幸い営業とか取引先の人と会う仕事ではないから、人より効率良く仕事をこなすのに、容姿は関係ない。

背が低かろうが、童顔だろうがやればできる。


仕事はほとんど毎日定時で終わるので、何か新しい事でも始めてみようかと思い、どうせなら体を鍛えてみようかと、会社のそばのスポーツジムに入会した。

ジムに通い始めて最初のうちは筋肉痛でつらかったけど、少しずつ慣れてくると気にならなくなった。

土曜日は仕事が休みなので、平日はできない事をする。

まとめて洗濯をしたり、買い物に行ったり、家でゆっくり体を休めたりする。

そして日曜日は、競馬場に足を運んだ。

相変わらず予想はなかなか当たらないし、馬券も遊びの範囲でしか買わないけど、そこに行くとねえさんとおじさんに会えた。

開催日でなくても、ねえさんとおじさんは競馬場に来ているみたいだ。

ターフビジョンで競馬観戦をして、昼は大抵、カツサンドかカツカレー。

誰かがそこそこの当たりを出すと、帰りにいつもの居酒屋でビールを飲んだ。

何度会っても、話すのは競馬と野球と、身近に起こった他愛ない事ばかり。

自分の事を話さないのは相変わらずだ。