パドックで会いましょう

「ちょっとアンタらぁ、そんな坊や相手に何調子こいてんねん。ええ加減にしときぃや。」

予想に反して女の人の声がした。

「あっ、ねえさん…。」

…ねえさん?

どう見ても20代半ば過ぎの、華奢な体つきをした女性だ。

この強面の男たちが怖れるような女性には見えない。

「大の男がしょうもない事でいちいちガタガタぬかすな。」

「すんません…。」

「わかったら早よ行け。」

ねえさんと呼ばれたその女性がシッシッと手で追い払うと、強面の男たちは頭を下げて、そそくさと去って行った。

一体この人、何者なんだ?


「大丈夫か?ケガしてへん?」

「あっ、大丈夫です。ありがとうございました。」

僕が慌てて頭を下げると、その人は笑って僕の頭をワシャワシャと撫でた。

「ええって、気にせんといて。なんや、この辺の子やないな?競馬場、初めてか?」

「はい…。馬券を買って来るように頼まれたんですけど、どこに行けばいいのかもわからなくて。」

「そうなんや。じゃあ、ついといで。アタシが連れてったる。」

ねえさんは僕の頭をポンポンと叩いて笑った。

よく見ると、肌が白くて切れ長の涼しげな目をした綺麗な人だ。

笑うと形の良い唇から八重歯が覗いて可愛らしい。

「ありがとうございます…。」