パドックで会いましょう

ようやく合コンが終わり、二次会を断って帰路に就いた。

電車に揺られながら、また窓に写る自分の顔を眺めてみる。

情けない顔だ。

吐き気がする。

思わず視線を真っ暗な窓の外の景色に移した。

線路沿いに並ぶ桜の木が、残りわずかな花びらを散らしている。


桜…か。


『背が高いとか見た目がどうとか、そんな事より大事な事があるわ。』


不意に、ねえさんの言葉を思い出した。

ほんの少しの間、僕を抱きしめてくれた、ねえさんの温もりが蘇る。


『もっと自分に自信持て!』


また、ねえさんの言葉が脳裏をかすめた。

持てる自信なんて、僕のどこにあるって言うんだ。

少なくとも今の僕には、自信なんて一欠片もないじゃないか。

ハッタリでもいいから堂々としていろなんてねえさんは言ったけど、そんな気力もないよ。

こんな姿、ねえさんには見せられないな。

……ああ、そうか。

見せるも何も、また会う約束をしたわけでもないし、よく考えたら、名前も歳も、どこに住んでいるのかも知らない人じゃないか。

僕がねえさんの事を何も知らないように、ねえさんも僕の事を何も知らない。

それなのになぜ、ねえさんはあんなにも僕の心を温かくしてくれたんだろう?

僕はなぜ、こんなにもねえさんの事を考えているんだろう?

なんだか無性に、ねえさんに会いたい。