パドックで会いましょう

「いかにもソッチの趣味の男に好かれそうな顔しとるもんなあ。この際やから、ソッチの世界に飛び込んでみたらどうや?」

先輩はほんの軽い冗談のつもりで言ったんだろうけど、僕は何度となく経験した恐怖体験を思い出して、背中に変な汗が流れた。

「やめて下さいよ…。優しくて頼りになるいい友達だと思ってたやつに、ある日突然好きだって押し倒されて、襲われそうになるんですよ。もうあんな恐怖は二度とごめんです。」

「そら怖いわ…。すまん、もう言わん。」

女の子にモテる先輩にはまったく縁のない話なんだろう。

本気でドン引きしている。

「とにかく…僕は見た目こんなでも、男ですからね。男にモテても全然嬉しくありません。」

そう言って僕が御飯の最後の一口を口に入れると、先輩は湯飲みを置いて腕組みをした。

「おまえ、女にモテたいんか?それとも好きな女でもおるんか?」

今の僕には好きな女の子なんていないはずなのに、“好きな女”と言う先輩の言葉に、一瞬ドキッとした。

なんだこれ?

なんだこのドキドキは?!

「そりゃまあ…人並みにはモテたいですよ。」

「彼女欲しいんか?」

「…欲しいです。」

ええ、欲しいですよ。

欲しいですとも、ものすごく。

「じゃあ、今度合コンセッティングしたる。それか紹介の方がええか?」

「お任せします…。」

本当は合コンとか紹介なんて苦手だけど、今の僕にとって新しい出会いは貴重だ。

先輩の紹介してくれた相手が僕を好きになる保証なんてないけれど、ねえさんが言ってくれた通り、せめて堂々としていよう。