パドックで会いましょう

ねえさんは僕の丸めた背中をバシンと叩いた。

「大人の男なんやったら、もっと自信持ってシャンとせぇ!!そんな事より!もうすぐ本馬場入場やから、よう見とけ!」

自分から言い出したくせに、ねえさんはこの話題を完全に投げ出した。

かなり横暴だ。

でも八重歯をのぞかせながらニコッと笑われると、どこか憎めない。



騎手を乗せた馬たちが馬場に姿を現した。

ねえさんが言うには、馬がレースをするトラックみたいな場所を、馬場と言うんだそうだ。

天気の良い今日は、地面が乾いて状態が良いことから、良馬場と言うらしい。


ねえさんは騎手を乗せて軽く流すように駆ける馬を、楽しそうに見ている。

今まで僕の周りにはいなかった自由奔放なタイプだ。

ついさっき初めて会ったのに、どういうわけか僕は、この人に惹き付けられている。

不思議な人だなあ。




競走馬が順番にゲートに入っていくのを、ねえさんはワクワクしながら眺めている。

「おー、あいつゲート嫌って暴れとるなぁ。」

やんちゃな子供を見るように、ねえさんは楽しそうに笑う。

ゴール前からではゲートは遠くて見えにくいのに、ねえさんの目には馬たちの様子がよく見えているみたいだ。

凡人の僕は正面の大きな画面で、ゲート入りの様子を見ていた。

ねえさんいわく、この大型の画面はターフビジョンと言うそうだ。