パドックで会いましょう

「ほらアンチャン、こっち来てみ。」

ねえさんは柵に手を掛けて手招きをした。

僕が隣に立つと、ねえさんは正面を指差した。

「あの正面にあるのがゴール板な。馬が1着目指してさ、必死になって駆け込んで来るんよ。ここから観るのが一番迫力あるねん。テレビで観るのとは迫力が全然違うで。」

「へぇ…。」

よほど競馬が好きなのか、ねえさんは目をキラキラさせて競馬の魅力を語る。

「ところでなぁ、アンチャン。」

「はい、なんでしょう。」

「今更聞くのもなんやけどな…アンタ、未成年ちゃうの?」

ああ、まただ。

入場券を買う時にも歳を聞かれたんだ。

「違いますよ…。成人してます。」

「成人してても、大学生は馬券買(こ)うたらあかんのやで。」

そう、これも聞かれた。

学生さんではありませんか?って。

もうため息しか出ないよ。

「…こんな見た目ですけどね…社会人です。」


声を大にして叫びたい。


童顔で背も低いけど、僕は成人した社会人だ!


どこに行っても高校生と間違われるけど、僕はもう大人なんだ!


「そうかぁ、あんまり可愛い顔してるから、未成年の学生さんやと思った。ごめんやで。」

「……いつもの事だから慣れてます。」

こんな綺麗な大人の女の人に面と向かって言われると、ものすごく子供だと言われているようで、正直ヘコむ。