「ほら、春ちゃんぼけっとしてないで動いてよ」


不機嫌そうに言いながらも携帯を構える姿は子供っぽくて面白い。


「あ、うん」


チューリップとすみれを背景に、春と並んでピースサイン。

春はただ立っているだけだけど。

携帯のカメラ特有の効果音が聞こえてすぐに梗の元へ歩み寄る。

画面に映るのはピースサインの私と優しく微笑む春。

やっぱりお花似合うね。

これだけ見ると王子様みたい。


「さんきゅ」

「別に。じゃあ戻るから。兄貴の所為で目が痒くて仕方ないよ」


目を擦る仕草をして、「あー、くしゃみ出そう」とぶつぶつ言いながら、家の中へと消えていく。


「ありがとう」


その後ろ姿に向かって感謝の言葉を投げ掛けた。

素直じゃない梗は、どういたしましてとか、天と地がひっくり返っても言わないんだろうな。


「兄貴の我が儘に付き合うのが弟の仕事だから」


軽く振り返って呟くと、梗はそのまま二階に続く階段を登って行った。

ほらね。


「素直じゃないよな」

「うん、春とそっくり」

「どこが」


ほら、それだよ。

怪訝そうに眉間に寄る皺とか。

ちょっとだけ傾く頭とか。

真っ直ぐな目とか。

たくさんあるんだよ。

でもね、


「秘密」


教えてなんてあげない。

私だけしか知らないのってなんか嬉しいもん。

幼馴染の特権だよね。


「教えろよ」

「やだ、秘密」


絶対に教えてなんてあげない。


「ふーん」


つまらなそうに携帯を弄り出す春。

ちょっと拗ねたかも。