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トイレとお風呂だけ我慢すれば、家での生活はどうにかなりそうだった。


あたしは学校への道のりを歩きながらそう思う。


だけど、いつまでも両親を騙し通せるとは思えない。


早いうちに解決策を見つけなきゃいけない。


そう思うと自然と歩調は速くなり、昨日の石段までやってきていた。


あたしはその手前で足を止める。


昨日、ここで歩とぶつかり、2人で転げ落ちてしまったんだ。


思い出しながら石段の真ん中に付けられている手すりに触れる。


手すりは所々は禿げて赤く錆びた鉄が見えている。


「おはよう」


そう声をかけられて振り向くと、あたしが立っていた。


「おはよう」


あたしは歩へ向けてそう返事をする。


「自分に挨拶するって、変な感じだな」


歩はそう言うとポリポリと頭をかいた。


「あたしも、そう思ってた」


そう言い、クスッと笑う。


あたしと歩だけの特別な会話をしているようで、少しだけ胸が暖かくなった。


歩の事は好きではなかった。


でも、こうなってしまった以上意識するなと言う方が難しい。