「分かってる、分かってる...」


壊れたように、繰り返す。


「嘘つくなよ。じゃあなんでこんな真似するんだよっ」


そう言って青柳颯太は、坂瀬くんを蹴った。

ガシャン、とまた大きな音。
坂瀬くんが机にぶつかる音。


「普通に、なりたかったんだよ...」


縋るような坂瀬くんの声は、今にも消えてしまいそうだ。

でも、青柳颯太は坂瀬くんを冷たく見下ろした。


「普通?笑わせんなよ。そもそも普通じゃねぇだろ。そんなことしてるからお前はどんどん普通からかけ離れて行ってんだよ」


カーテンの隙間から差し込む光に、青柳颯太の瞳が光る。

怖い。
ただ、怖いと思った。
冷酷な、ただただ坂瀬くんを軽蔑するような目。


「馬鹿みたいなこと考えんなよ」


冷たくその一言を残して、青柳颯太は教室を出ようとこちらに向かってくる。
私は慌てて近くの柱に身を隠した。

そして暫くして、坂瀬くんが出てくるのを見ていた。

フラフラと、おぼつかない足取り。
傷だらけの顔。
そして、坂瀬くんの瞳は、闇を閉じ込めたように、くすんでいるようだった。

坂瀬くんが出て行った後、私は教材を置き、鞄を持って坂瀬くんを追って走った。