そして、麻妃先輩がいなくなった後。

屋上の出入り口に目を遣りながら、仲間の一人がそう言った。


部活の先輩だよ。


その言葉にそうやって普通に返せばいいんだろうけど……俺は貰ったノートを自分の隣に置くと、また漫画を開く。


仲間たちは皆、知らないのだ。

俺が吹奏楽部に入部して、サックスを吹いていることを。


俺が黙ったままでいたら、仲間達が俺の隣にわらわらとやって来て言った。



「なぁ、吹奏楽ってオイ何だよそれ」

「…」

「今の、三島の彼女?…じゃないよな。え、もしや部活の先輩…的な?」

「え、お前部活入ってんの!?」



皆は口々にそう言うと、興味津々に俺を見つめてくる。


…その言葉に、やがてまた漫画から目を逸らしてそいつらに目を向ける俺。

隠していたわけじゃない。

ただ、部活に入る前にあれだけ「一生懸命やったってどーせ…」とか「めんどくせぇ」とか文句ばかり言ってきたから、なんとなく言いづらかったのだ。

やっぱり俺も部活入りましたー、なんて。


俺は少しだけ躊躇ったあと、そいつらに言った。



「……ちょっと色々あってな。吹奏楽部に入部…したんだよ」

「え、マジか!あれだけ“帰宅部”“帰宅部”言ってたのに」

「しかも、よりによって吹奏楽……何か、三島じゃねぇみてぇ」



そしてそいつらは好き勝手にそう言うと、可笑しそうに笑って見せる。


…俺が楽器を使って演奏している姿を想像して、きっと違和感を抱いているんだと思う。

だとしたら奇遇だな。

俺もずっと同じこと思ってるから。