小さくなっていく麻妃先輩の背中を、見えなくなるまで見つめる。

今日はやっと、麻妃先輩に合宿の時のことを謝ることができた。


初めて俺から誘ったレストラン。

今は、その帰り。麻妃先輩と別れたあと。


…謝ることが出来ただけでも、十分満足なんだけど。

最後の最後に言いそびれたな…麻妃先輩が渡辺部長と、不倫してるってこと。

…ああ。あそこで子どもに邪魔されなければ今頃は、引き寄せていたかもしれないのに…。


まぁ…次だ。次。


俺はそう思うと、見えなくなった麻妃先輩を背に、今度は自分のマンションに帰るべく、麻妃先輩とは違う線の電車に乗る。

その間にユリナがこっそり麻妃先輩の後をつけていたとは知らずに、俺は電車の中の空いている席に腰を下ろした。


…麻妃先輩は、何で渡辺部長とそんな関係になってしまったのか。

この前俺は、同じ会社の同じ部署の先輩達から、聞いてしまった。

いや、正しくは“聞かされた”。


「三島くんって、麻妃ちゃんと知り合いだったの?」って聞かれて頷いたら、

「じゃあ仲良いんだ?」って話になって、だけど…「あのコ、経理部の渡辺部長と不倫してるって噂が立ってるよ」…なんて言われたんだ。


でも、麻妃先輩は俺のこと…好きだと言ってくれた。いや、俺フラれた感あるけど。

ただ正直、数週間くらい前に、ホテルの中に麻妃先輩が渡辺部長と二人で入って行った姿を、俺は目撃してしまったし。

…それが、単なる噂だけじゃない証…だと思う。


本当のことならすぐに、麻妃先輩を俺の方に引き寄せたい。

麻妃先輩はきっと、渡辺部長とのことがあって、俺に自分のことを“三島くんが思ってるような女じゃないよ”って言ったんだと思う。

けど俺には、そんなことどうだっていい。

関係を持ってしまった理由が知りたい。

…麻妃先輩は、渡辺部長にどこまでの自分を見せているんだろう。


俺はモヤモヤしたまま、目的の駅で電車を降りた…。