初恋フォルティッシモ


出来ればそんな奴とは目も合わせたくないけれど、仕事だから仕方ない。

何気なく麻妃先輩に目を遣るけど、意識しているのかいないのか、一方の麻妃先輩はいつもと同じ表情。

何かを説明しているけどその言葉は耳から耳へと通り抜けて、俺の頭の中にはこの前のショックなシーンがまた浮かび上がってきた。


…平然として麻妃先輩を見つめている、コイツがムカつく。


だけどそんなことをもちろん顔に出すわけにもいかず、俺は嘘の笑顔で新人らしく挨拶をする。



「三島です。よろしくお願いします」



……俺もいつのまにか大人になったな。

学生の頃だったらきっと…いや、絶対抜け出して帰ってたな今のこの展開。


しかし…挨拶が終わって、元の部署に戻ろうとした直後、その麻妃先輩の背中をふいに渡辺部長が呼び止めた。



「…あ、藤本さん!」

「…はい?」



…何だ?


何か嫌な予感がして俺も聞き耳を立てたら、その時渡辺部長が言う。



「仕事が終わったら8階の会議室まで来なさい」

「!」

「…仕事のことで話があります」



その言葉に思わず俺が麻妃先輩を見遣ると、麻妃先輩はやがて普段通りに返事をした。



「…ハイ」

「!」

「わかりました」



そして、麻妃先輩がそう頷いた直後…微かに、渡辺部長が不敵な笑みを浮かべた。…気がした。