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私はトボトボと下を向いたまま学校へと向かう。

「この大馬鹿女っ!」

どうしてあんなに怒ったの?

「馬鹿かお前はっ。それだけじゃねぇだろっ。」

それだけじゃないって何?

結婚を認めるって私は決めたんだよ。

それをパパに伝えるだけじゃダメなの?

ちゃんと教えてくれなきゃ分からないよ…

「おはよぅ、葵。」

教室へ着くといつも通り、優衣が元気に挨拶をしてきた。

「…おはよー。」

「なぁに?元気ないじゃん。どうしたの?」

私の顔を覗き込む優衣。

「…ん、なんか今朝、大賀見を怒らせちゃって。」

私は隣の席に目をやる。

そこには先に家を出たはずの大賀見の姿は無かった。

「ハルと喧嘩でもしたの?」

キャーと黄色い声と共に教室へ入ってきた滝沢くん。

「おはよ。小辺田さん、桂さん。」

滝沢くんに優しい笑顔を向けられて、張りつめていた緊張の糸が切れそうになる。

「…おはよう、滝沢くん。」

私はなんとか涙を流さずに挨拶をする事ができた。

「何があったの?僕で良かったら話してみて。」

滝沢くんは私の頭を優しく撫でながら、柔らかい瞳で見てくれる。

目頭が熱くなって我慢したはずの涙が零れそうになったとき

「涼介、そいつに軽々しく触れんなよ。」

私はその声と同時に後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「おはよ、ハル。」

いつものキラキラスマイルで、何事も無かったように挨拶をした滝沢くんに反して、私は突然に抱きしめられて、どうしたらいいのか分からずに固まっていた。

でも、そんなのお構い無しに大賀見は耳元へ口を近づけてくる。

今朝の意地悪を思い出し、今度は何をされるのかと緊張がはしった。

「今朝は怒鳴ったりして…悪かった。」

そっと私にだけ聞こえるように呟いた大賀見。

ウソ…

あの大賀見が謝ってる?

ゆっくりと大賀見の方へ視線をやると、少し頬を染めてバツの悪そうな顔をしていた。

「ふふ…。」

「なに笑ってんだよ///」

「別にぃ。」

「あっそ///
まぁ、いいや。それより、ちょっと話があるからついてこいよ。」

そう言って私の手を強引に引っ張って行く大賀見。

「ちょっと、待って。」

滝沢くんが私の手首をそっと掴んだ。

私は右手を大賀見に、左手は滝沢くんに掴まれている状態になる。

「さっき、小辺田さんが泣きそうな顔してたけどハルのせい?」

「涼介、その手離せよ。」

「僕、言ったよね?泣かせたら奪うって。」

大賀見の事を鋭い目つきで睨む滝沢くん。

私は二人が喧嘩しないか心配で、オロオロする事しか出来なかった。

「…悪かったよ。もう、泣かせねぇよ。」

大賀見は滝沢くんの目をジッと見たまま答える。

そして………

ゴチンッーーーーー

鈍い音が響いたと思ったら、大賀見は滝沢くんに頭突きをしていた。

「痛った…。」

滝沢くんは涙目で額を手で押さえている。

「何するんだよ、ハルっ。」

「バーカ、涼介は奪い取るなんてことしねぇよ。」

「そんなの、分からないよ。」

「分かるよ。だって、俺が唯一、信用してる男だからな。」

「なっ///」

「照れんなよ、涼介。いつもの余裕がなくなってんぞ。じゃあな」

そう言って「べー」と舌を出してから、大賀見は再び私の手を引いて教室を出て行った。

「あははっ、滝沢くんでもそんな顔するんだねぇ。」

「桂さん…ちょっと酷いな、そんな言い方///」

「ゴメン、ゴメン。それにしても、意外と大賀見って人たらしなんだねぇ。」

「ハハ…。ほんと、敵わないよ。ハルには。」

いつものキラキラスマイルに戻った滝沢くんは、「じゃあね」と言って自分の教室へと戻って行った。