スーさんは隣の本格コースで泳ぎ始めた。その美しいフォームに思わず見惚れる。あれくらい泳げるようになりたいものだ。
「す、すみません……おひたしめは泳いだことが無く……歩行コースへ行ってきますね」
 ひたし様は端の歩行コースへ移動してゆっくりと歩いている。若者とは思えない、そこはおひたしらしい選択だ。
「さと子さん、泳げます? ビート板持って来ましょうか?」
「ああ、そうしようかなぁ」
「いいよぉんなもん。ほら、手ぇ貸してやるから、ちょっと浮いてみなぁ」
 ぎりの助に両手を掴まれると、流れに任せてそのまま引っ張られる。すると、さと子の重い体が簡単に浮き上がった。
「おおっ!?」
 思わず声を上げてしまい、ぎりの助以外の皆が監視員の方を見た。完全に寝入ってしまっている。仕事は全くなっていないが、今回ばかりはそれが有難い。さと子達は安堵すると、それぞれしたいことを再開した。
 スーさんは本格的に泳ぎ、ひたし様は水の上を歩き、サラダはビート板を持ってフリースペースで泳ぎを練習し、ぎりの助は気持ち良さそうに泳ぐさと子のサポートをし続けた。

 気付けば終了時間ギリギリまで泳ぎ続けていた。館内に終了のアナウンスが流れ、さと子達は急いで上がった。結局、監視員の方は最後の最後まで寝ていたので、スーさんはハシゴを登ると、「えいっ」と監視員にデコピンした。スーさんが見えない監視員は、ハッと目を開けると、きょろきょろと辺りを見渡した。笑いを堪えながら、スーさんは食べ物男子達を追いかけた。

 プールを出ると、気持ち良かったはずの体はどっと疲れが現れた。そうか、これが水の上で泳いだ筋肉なのか。今までの感覚とは少し違う。パンパンの腕を上に伸ばし、大きく伸びをする。
「明日筋肉痛になってそ~。でも、みんな有難うね」
「いえ、僕達は好きなことやってただけですし……お礼を言うなら、はいっ」
 サラダは小さくハニカミ、手を横にやる。ぎりの助は素っ頓狂な顔をして、人差指で自分を指す。
「そうね。有難う、ぎりの助。貴方に言ってもらえなかったら、プールとか一生しなかったし、泳ぐのサポートしてもらえたから本格的に全身運動出来たよ! 本当に有難う!!」
 にっこりと笑うさと子に、「いやぁ」と照れくさそうに頭を掻いた。その後、ぎりの助は小さく首を振る。
「俺だって、人を選んだりするものさぁ。さと子はちゃんと目標があるし、心だって広ぇ。だから、俺ぁはそんなおめぇに応えなくちゃって思っただけだ。次、また必要な時は呼んでくれぇ」
「勿論だぁ……あっ」
 しまったとさと子が口元を手で覆うと、食べ物男子達は一斉に笑った。さと子自身も可笑しくなり、全員で笑い飛ばした。

 帰宅し、とりあえずはご飯を食べる。プールでシャワーを浴びたし、入浴は後でも良いだろう。目の前の美味しそうなメニューによだれが溢れそうだ。
 両手を合わせ、「いただきます!」で、まずはサラダを食べる。以前テレビ番組で、野菜から食べると太りにくいと聞いたので、細かい部分ではあるが、実践してみる。シャリシャリと新鮮な野菜が綺麗な音を立てる。水分が溢れだすのは、一生懸命動いた後だと尚更嬉しいな。おひたしは、今回も違うメニュー。よくこれだけ考えつくものだ。今回は、トウモロコシを添え、塩だれをかけたシンプルなもの。けれど、白菜やホウレンソウに、トウモロコシは結構合う。そしてステーキを食べる。うむ、やはり王道的な味。これさえあれば、生きてける。本当なら肉汁まで頂きたいが、また太ってしまうので我慢しよう。最後に、おにぎりを食べる。やはり、これは美味しいな。炭水化物の存在はどれも大きい。麺もパンも、ソレ1つでは物足りないが、調理法を変え、具材や調味料を追加すれば、沢山の可能性とうま味に満ち溢れた魔法の材料なのだ。その中でも、おにぎりは凄い。塩を一振りするだけで、1つの料理になってしまうのだ。中に梅やカツオを入れれば、こんなに心も胃も満ち溢れてしまう。夢のような料理だ。ちなみに、今回の具材は鮭だ。塩味の効いた鮭が、おにぎりと良く合う。
「う~ん、美味しかった! お腹もいっぱい! ご馳走様でした!!」
 両手を合わせ、頭を下げる。食器を何時も通り洗うと、半身浴をして、今日も早めに就寝した。

――現在の体重、78キロ