「母親にバレちゃってさ」


佐橋先輩が口を開いたのは随分歩いてからだった。


「え?」


驚いて、背の高い先輩の顔を見上げる。困った顔で微笑む佐橋先輩がいた。


「恋愛小説の蔵書、母親にクローゼットで見つけられた。エロ本を見つかるより恥ずかしいな、あれは」


そこで、佐橋先輩は少し笑った。


「母親が半狂乱になっちゃって。息子の変な趣味を見つけたら当たり前だと思う。幸い、姉たちが庇ってくれたけどね。私たちの影響だし、エッチな本じゃないから許してくれって」


「それじゃ、本は……」


「姉たちに贈与することになりましたとさ」


返す言葉が見つからなかった。
それじゃ先輩は、もう息抜きに好きな本すら読めないってことじゃないか。


「大学合格まで、いかがわしい本禁止って話になったんだ。失礼だよな、いかがわしいってさ。でも、受験は確かにでかい目標だし、中途半端な覚悟で挑んじゃまずい。それは母親に言われなくてもわかってる。俺自身悩んでたことだし」