「カバーをおかけしますか?」


私の問いに彼はいつもどおり、コクコクと頷く。
絶対に声は発さない。

会計を先に済ませ、手早くカバーをかける。
割と器用なので、この作業は好きだし早い。

何より、この人のメガネの奥の双眸が私をせかしているから、急いであげたほうがいいよね。

まとめて輪ゴムで留めてお渡しすると、彼はこれまた暗い色合いのモスグリーンのリュックにそれをしまった。


「ありがとうございました」


私の声を背中で聞いて、彼はそそくさと紀尾井屋書店を後にしていった。


「かれこれ半年はちょこちょこ来てる……。なんなんだろうね、あの人」


桃子ちゃんが言う。


「恋愛小説ばっかり買ってくけど。どう見たって男の人だし」